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天井に等間隔で並んでいる冷たい電球が、辺りを照らしている。悲しい明かりは、この薄汚い通路によく馴染んでいた。
その通路を看守がパタパタと足を鳴らしながら歩いている。ある牢の前で足を止めると誰かを呼びつけた。
「Aの116。また、手紙が届いているぞ。君の彼氏は律儀だな」
看守は鉄と鉄の間から手紙を差し出す。
「ありがとうございます」
A116は手紙を受けとると会釈をした。
「Aの116は手紙を返さないのか?」
「はい。返す必要がないので」
「酷い言い様だな。こんなにまめに手紙を貰っているのはAの116ぐらいだ。少しは彼氏に感謝するんだな」
看守はA116の牢から離れていく。ひんやりとした牢屋に“殺人犯に何を言っても無駄か”という声が小さく響いた。
A116は涙を流しながら封筒を眺めている。
表にはでかでかと“僕の大好きな君へ”と、裏には表の字に負けないくらいの大きさで“君を一番愛している僕より”と書いてある。
A116は涙を拭うことなく、ポタポタと涙で字を滲ませながら、丁寧に封を切った。
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