不良読書家の恋

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その日も先に来てた奴らに二度見されながら(そんなに珍しいかよ)本を借りていた。 いつも目線を斜め横に固定して貸し出しカウンターに本を置く。 貸し出すためのチェックをしてる係の顔を絶対に見ないようにして早くしろとこころの中で念じる。手を宙に浮かせて催促。我ながら嫌な客だ。けど早くここから出たいんだ。恥ずいから! 差し出しっぱなしの手の上に本が置かれて、ほっとして急いで出ようと歩きだそうとした時 「あの!」 小さいけどよく響く声が俺を引き止めた。 放課後の係の人間はいつも同じやつな気がしてた。ちゃんと顔を見たことはないが髪型がベリーショートのやつなんてそんなにいないはずだ。 そいつが真っ赤な顔でカウンターから立って、俺を見てる。 「な、なんだよ」 情けないことに俺の腰は引けている。外見こんな不良だからって気が強いってわけじゃないんだよ。外見不良のくせにろーるんの不思議な冒険なんて読んでんじゃねぇとかもう貸し出さないとか言われたらどうしようってびくびくしてた。 だから 「・・・それ、私も好きです」 これは予想外で、真っ赤なままの女の子をぽかんとしばらく見つめてた。 それが出会い、いや、初めての会話だった。
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