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「辻村君はいつから本を読むようになったの?」
安土巴との会話はほとんどがそいつが俺に質問して、俺がそれに答えるって感じだった。
巴が図書の仕事をしてるカウンターの椅子の隣で、床の上に直接座ってた俺は巴を見上げる。
「保育園からかな。」
声はかなり小っさい。でもここならこれで十分。その椅子の隣は俺の定位置だ。カウンターを回り込まないと俺が見えない。
「きっかけは?」
カウンターのうえで仕事しながら巴は俺に話し掛ける。
「いつも遊んでたやつが風邪で休んで、暇だったからそこら辺に積んであった絵本を読んだ」
「なんの本?」
「サルかに合戦」
「面白かった?」
「あんまり。」
何かを書いていた巴が不思議そうに俺を見た。
「どうして?」
「追っ払われたサルがどうなったのか気になって眠れなくなったから、あんま好きじゃない。」
親に散々聞いて困らせた。親父はそんなの気にするなと頭を叩かれた。
他のやつに聞いたら「サルはわるいやつだから死んじゃったよ」と言われた。
それを聞いた俺が泣きだしたから言ったやつは先生に怒られてた。
「なあ、お前はさるはどうなったと思う?」
初めて俺が質問すると、安土巴は少し考えるように視線を宙に彷徨わせた。
「考えたことがなかったから、わからないかな。」
正直な答えに俺も納得した。
普通は考えないよな、悪いサルのその後なんて。
みんなわからないのに適当に死んだとか幸せになったとか言うから、よくわからなかったんだ。
巴はきっと幸せになったと言うだろうなって思ってたから、予想が外れてなんか嬉しかった。
「でも、」
俺に視線を合わした安土巴は暖かい笑みを浮かべた。
「辻村君が優しいのはよくわかったよ」
「・・・俺がわかるように言って?」
俺が馬鹿だからか、巴の言ったことが意味わからない。
結局、教えてくれなかった。
安土巴はいつも予想外だ。
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