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「……というわけで、今からこのギディヌさんがお前の指導をしてくれる」
「分かりました帰ります」
体育館、背を向けて帰ろうとした燐の背後から発砲音、燐の顔の横を通過し扉にぶち当たった。
煙を上げて弾丸の跡を残し、貫通した扉を見て、燐の足が止まる。
燐のこめかみから、冷や汗が流れる。
「何帰ろうとしてやがる。
せっかく僕が指導者を連れてきたんだぞ」
リボルバーの空薬莢を排出しながらレフィは告げる。
「あ、あの、レフィさん、む、無茶は」
それを慌てた様子でギディヌが止めようとするが、レフィはちっちっち、と指を振ってそれを流した。
「何言ってるんです。仕事の合間でいいという条件で無理言って来てもらったんです。
あいつにはちゃんと指導受けさせますんで、よろしくお願いします」
「で、でも私、外力勁どころか、勁術、さえ久しぶりで……」
「ほら見ろ先生」
冷や汗を拭って、燐は振り返った。若干涙目だが、誰も言わなかった。
「だいたいその人事務員だろ。強くもないし優れてるわけでもない、指導者として疑うのは当たり前だ」
「ほう……強くないと」
目を細めてレフィは言った。
「それは自分で体感してみるんだな。
ギディヌさん、打ち合わせ通りに」
「え、は、はい」
ギディヌは精神の集中に入った。
滲み出る『紅』の力、荒ぶるエネルギーはギディヌの体に薄皮一枚、纏うように収まった。
これは、普通ありえないことだ。それは燐が目を疑うどころか、目の前の人間を事務員だということを忘れさせるには十分すぎる。
常に動き、荒々しく胎動する『紅』。それを完全に『碧』のように完全に操るのは並大抵のことではない。才能と時間がどれだけあっても足りないだろう。
ちなみにこれは『蒼』にも『碧』にも適用させる。『蒼』を荒々しく力強く操ることも、『碧』を流れさせることも、普通ではできない。
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