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焼き尽くされた村があった。
夜の闇を蒼い炎で明るく照らし、廃墟と化した建物を軍服に身を包んだ男たちが行き交う。手に持った通信機で交信を続けており、切羽詰まった状況のように慌ただしく行動している。
そんななか、蒼い炎に包まれた家の前で、呆然として立ち尽くしている少年がいた。まだ幼く、この状況を正しく理解出来ない年齢のはずだった。
だが、少年は理解していた。
この村を襲ったものも、炎で焼いたものも、そして自分の両親と幼い妹が死んだことも。
全部理解して、少年は涙を流さなかった。
ただ、その頭にあったのは、
(どうして?)
わずかな疑問。理解はできてる、家族が死んだことも、これを行ったものも全部。
(どうして?)
理解はできてる。自分が置かれた立場も。
(どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?)
耳鳴りのように続く疑問の言葉が少年の頭を支配していく。考える頭も行動する頭も、全て疑問が塗りつぶす。
そして、少年の疑問は止まった。
(そうだ。 『たすけてくれなかったんだ』)
誰も助けようとはしてくれなかった。焼くだけ焼いて、それだけ。
少年は手で顔を覆うと、クツクツと笑い出した。
「は、はは、ははははは」
少年の頭は、心は、疑問の解答が示されたその瞬間壊れてしまったのかもしれない。無論少年はそれすら理解していた。理解してなお、狂気に身を委ねる。
「は、ハはハ、アハはははハハははははは!!」
少年の笑いは闇夜を抜け、村中に響き渡る。蒼い炎が少年の姿を妖しいものに映しているようだった。
このとき、少年の心にあったのは一つの目的だった。
家族を、村を、焼き尽くしたものに復讐する。
これは、一人の少年の悲哀と再生の物語。
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