1話 その男、厄介者につき

3/55
307人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
先程までとは打って変わり、不安そうな顔になるナリル。アナグラのマスター、オイトリオ・マグナガージは老人でありながら異様な威圧感を持っており、若手にとって彼に怒られるのはかなりの苦しみである。何より説教が長いのだ。 カナッチェは顎に手を当て思案する。 「そうねー。 今ならパートナーに誰か選んで証明書を書き直しちゃう、という方法があるけどねー」 「え? ほんとに?!」 「でも、下手したらその人にも雷が落ちちゃうわねー。 いるかしら? 危ない橋渡ってくれる人」 ナリルはすぐさま振り返り、そこにいた男たちに視線を向けた。 しかし、誰もが視線を逸らし目を合わせようともしない。無論、オイトリオの説教が嫌なので巻き込まれたくない。 うー、とナリルが唸っていると唐突にドアが開いた。 救世主か、今なら話を聞いていなかったはずなので望みがある。そう思ったナリルはそっちへ視線を向けた。しかし、望みは砕かれる。 そこに居たのは、赤髪長身、黒いコートを羽織った男だった。腰にはおおよそ護身用とは思えないほどの大口径リボルバーと、朱漆の大太刀を携え、左手には肩まで防御する赤いガントレットを装備。 何より、顔つきが怖かった。 傷一つ無く、優しげな面もちをしている。実年齢より若く見られるのでは、という顔立ち。しかし、目つきは冷たく鋭い。 その眼光からどう考えても厄介もの、もしくは危ない人にしか思えない。視線さえ合わせたくないとも思えるほど怖い。 固まったナリルの横を抜け、男はカナッチェの前に立つと、紙を差し出す。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!