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「失礼します、マスター」
「よく来たなあレフィ……、中に入れ」
扉をノックしてから入ったレフィの目に飛び込んできたのは、一冊の本だった。難なくそれを右手で受け止め、地面に投げる。レフィの目は若干不機嫌だ。入った直後にものを投げられてはそうなるだろうが、理由はそれだけではなさそうだ。
そんな様子を見ていて、本を投げつけたのは一人の老人。白髪で立派なヒゲを蓄えたシワの奥に鋭い眼光をしている。彼がここのマスター、オイトリオ・マグナガージ。このアナグラのマスターだ。
「で、マスター。 僕に何のようでしょうか」
「自分で分からんかのう、『魔術師殺し』。
この間の依頼と、今回の依頼、いやそれ以前からお前は問題児だったが今回ばかりはもう我慢ならん!」
机を叩いて怒りを露にする。
「今回の『裏』の依頼はニブ・ギイ一人の暗殺! それを一族郎党皆殺しとはなんじゃ!」
「別に、悪い毒草は根っこから駆除しなきゃ意味ないでしょ」
「それだけじゃない! その前の依頼は酒場で暴れる軍属子弟を半殺し、その前は汚職軍人の実態を調べる調査で殺害!
レフィよ、なぜそこまで『彩家』を憎む!? お前がやってるのは、ただの虐殺じゃ! 仕事でもなんでもない!」
「だったら僕を辞めさせますか」
オイトリオの前に立つと、その顔めがけてリボルバーを突きつける。撃鉄を起こすとシリンダーが回転。弾丸が装填、あとは引き金を引くだけだ。
冷たい目付きをするレフィに対し、オイトリオはさらに眼光を鋭くし睨み返す。
沈黙、二人の緊張感が最大限にまで高まったとき、オイトリオは口を開いた。
「お前を野放しにすれば、さらに犠牲者が増えるじゃろう」
「よくご存知で。 僕はもう能力者と戦える。 修練としてはよかったよ、このアナグラは。
憎い能力者を殺しながら腕も上げれるし、金ももらえる。 最高の仕事だ」
「お前は、一体どこへ向かっておる」
「さあ、どこだろうねぇ」
リボルバーを回転させ腰に仕舞うと、レフィは一歩下がった。
「それで、次の仕事だ。 いつもどおり『裏』の仕事がいいな」
「次の仕事は決まっておる」
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