《黒色》

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 足元で何かが震える感触を得て、僕はびくりと上体を起こした。僕の足首に固定された携帯は、僕が起きようが起きまいが関係ないと言わんばかりに震え続けている。これは僕が開発した目覚ましだ。足首が弱い僕にはかなり効く。  とりあえず、ブルブルずっと震えられているとちょっと刺激が強すぎるので、息の根を止めさせてもらおう。  僕は携帯のアラーム機能を切ると同時に時間をチェックする。何の味気も無い待ち受けに映し出された時間は五時。学校が始まる時間が八時十分であることを考えると明らかに早く起きていることがわかる。まぁ、これも彼女との約束のためだ。  ぼけっと呆けていても、時間だけは刻一刻と過ぎていき、約束の時間に間に合わなくなってしまうので、僕はさっさと準備を始めることにした。ダブルサイズくらいはあるベッドから降り、ぱぱっと着替えを済ませる。そして、昨日のうちから準備しておいた荷物と今脱いだばかりのほかほかの寝巻きを持ち、脱衣所に向かう。  脱衣所にはこれまた大きな洗濯機が置いてあり、僕はそこに寝巻きと洗剤を入れボタンを押す。ぐるぐると回り始めたことを確認してから、ちらりと鏡を一瞥してみると、顔に傷ができているのがわかった。僕は誰もいないのにわざと大きく舌打ちをして、顔を洗った後、傷跡に絆創膏を張った。  ポケットから携帯を取り出し時間を見ると、五時二十分。集合時間が五時半であることを考えると、そろそろ本格的に時間がなくなってきた。僕は急いで、居間に行き、部屋の隅に置かれた仏壇までせかせかと足を進める。  仏壇に着くと僕は蝋燭に火をつけ、線香を横の棚から出し、蝋燭の火を移す。火がともり先をちょんと赤くした線香を香炉に刺し、僕は正座をした後、輪を叩いて黙祷した。 「では、行ってきます。父さん。母さん」  僕は一言そう言って、正座をとき立ち上がり、玄関へと歩みを早めた。
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