《黒色》

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 他愛もない話を続けていると時間が過ぎるのは早いもので、あっという間に学校に着いてしまった。門の近くに来ると、九黒はすーっと僕から離れ、そして、振り向いて言った。   「では、また放課後に」 「うん。また放課後に」    九黒はそれだけ言うと、わざとらしく大股に僕から離れていった。僕は九黒が完全に見えなくなるまで、校門で立ち尽くした。自分から言い出した事とは言え、なかなか嫌なものだ。これでは僕が振られてしまったみたいではないか。  そんな自虐的な考えを自嘲的な笑みで吹き飛ばし、九黒がいなくなった下駄箱へと僕は歩み始めた。下駄箱へと続く道を歩きながら、左手に見えるせんだんのそびえ立つグランドを眺めても、人は誰もいない。すでにこの光景は何回か見たものであったが、なんとなく好きな光景の一つだった。虚無というものはそれだけで美になってしまうから恐ろしいと思う。九黒もさっき言っていたが、雲と言う塵の塊が虚無となるだけで、空はいっそう綺麗なものとなる。    黒が虚無となれば白が美となり。  白が虚無となれば黒が美となる。    つまり、何かの犠牲の元に美というものは成り立っているのだ。  ゆえに、美とは儚いものであるべきなのだ。九黒のようにね。    僕は下駄箱に到着したので、鞄から靴を取り出し、自教室に向かって歩き始めた。
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