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何分経ったであろうか?
既に西の空には太陽が沈みかけている。梅雨というこの時期を考えれば、けっして早いとは言えない時間であろう。が、動けない。
あの白さに魅せられてしまっている。
こんな体験は一度もなかった。
未体験のこの感覚は分数を重ねるごとに背筋を冷やしていく。
それすらも心地良く感じるのに僕は少しばかり恐怖した。
「僕は帰らせてもらいます」
僕はそう言って座っていたベンチから立つ。あの感覚に耐えられなかったのだ。
安息感、否、名残惜しさを感じつつ、ずっしりとした制服の重みを感じながら帰路へと歩を進めようとしたその時、袖に少しの力が加えられる。
「もう少し……ちょっとだけ待ってくれないか」
彼女はうなだれながら僕の袖を掴んでいた。その白い手で。
やはりこの白さを見ると心地よい。
「いや、帰らせてもらいます」
雑念を振り切るように僕は言った。しかし実際は、これが雑念かどうかすら僕にはわからないのだが。
何とも人間とはめんどくさい。
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