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「待ってくれ!」
刹那。
先ほどまでとは違った大きな外力を受けた僕は、自分の体を制御できずに再びベンチに座らせられる。
彼女は僕が座った上に小さな体ながらまたがり僕の行く手を阻んだ。
「待ってくれ。お願いだ」
彼女は少しばかり涙ぐんだ大きな二つの瞳を向けながら、僕に懇願するように言った。
黒く深いその二つの瞳に少しばかり心地よさを感じた僕は、あえて目を背ける。ここで見てしまったらさっきの二の前だ。欲望に逆らうのもまた、人間らしくなくて良いだろう。
僕はそっぽを向いたまま返答する。
「なぜです?」
「……私が君に帰ってもらっては困るからだ」
彼女の視線を感じる。きっとじっと見ていることだろう。
「僕が帰る事で何が困るというのです。それとも何ですか?『僕が生きている理由』。これがそんなにあなたにとって、重要な事なのですか?」
「……理由は言えないが重要だ」
視線の重苦しさが溶ける。
どうやら彼女は素直な性格らしい。
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