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たとえば、俺の場合…
「大変申し上げにくいことですが…眞菜ちゃんの余命は保って1ヶ月でしょう…」
突然妹の余命が1ヶ月と知った時、頭の中が真っ白になってしまう。
一体眞菜は、今どんな気分で医者と向き合い、俺と母さんと父さんの隣で座っているのだろう。
診察室の、ある何もない一点を見つめる直江 博人は、真っ白な頭の中でそう思った。
4人の足音が、病院の廊下に刻まれる。誰も一言を話さず、誰も表情を変えようとはしない、ただ暗い顔をした4人が、光差す病院の廊下を、歩いている。
眞菜の病室に戻る途中、娘が退院したのだろう、俺の家族と全く同じ構成の一組の家族が、眩しすぎる笑顔で横切った。
だけど、眞菜は泣かなかった。3人に車椅子を押され、膝に掛かっている毛布の上で、固く、小さな拳を握り締めている。
たとえば、俺の場合…
自分が1ヶ月後に死ぬと言われた時、泣いてしまうかもしれない。
博人は、妹の強さを知り、驚いた反面、悲しくもなった。
こんな時にしか、妹の強さに気づけない自分が、運命が…悲しかった。
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