たとえば、俺の場合…

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さらに一週間が過ぎると、眞菜は笑顔を失った。 言葉数も減り、テレビも見なくなった。 今ではベッドに寄りかかり、日中は天井を見上げて過ごした。 その間、眞菜は違う未来の自分を真っ白な天井に描いているのだ。 小学生… 眞菜はテストで初めて100点を採って、お母さんとお父さんに惚れられて、お兄ちゃんに言っても、テレビの画面を観ながら「へー凄い凄い」と興味無さそうに言っている。 中学生… この頃になると、お兄ちゃんは立派な社会人、眞菜に対しても、兄としてでは無く、1人の大人として接するようになる。でも眞菜はそんなのお構いなしに、お兄ちゃんに抱きつき、そのたびにお兄ちゃんはドキッとしてしまう。 高校生… その日はお兄ちゃんの結婚式、眞菜も初めて彼氏が出来た。お兄ちゃんと相手の女性の姿を、自分と彼氏に当てはめては、心がときめいてしまう。 大学生… 眞菜は夢であった保育士を目指して、日々勉学に励んでいる。ピアノは難なく弾ける、あとは子供達と同じ目線で物事を見つめることが出来ればいいのだが。 突然、天井に映る景色が途絶えた。 「こんにちは、僕は隆弘…君は?」 眞菜は天井から目を離し、その声の方に目をやる。 すると其処には、自分のベッドに身を乗り出し、じーっと自分の顔を見つめる1人の男の子が目に入った。 目覚めてから、初めて目を動かした気がする。 「あたし…は、ま……な」 しばらく声を出してなかったからだろうか、言葉が出にくい。 「まなちゃん?僕は今日から隣のベッドに居るから、よろしくね?」 眞菜は何も答えず、再び重たい目を天井に向けた。
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