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仕事終わり。
いつもの時間に会社を出て、いつも通る道で帰宅する。
―――
夜8時。
静かな、あの道へと歩いていく。
(あぁ。あの人だ)
ほぼ毎日この道で、すれ違う男性。
(やっぱり素敵だわ)
男性まで5メートル…3メートル…
(今日も目があった)
出会うと必ず視線が合う。
(彼も私に気があるのかしら?)
だったら嬉しい。
(彼と一緒になりたい)
いつも、すれ違うだけ。
(今日こそは!)
意を決して彼の正面に向かう。
男性も、同じ行動にでていた。
まるで同調しているかのような動き。
(そうよ。私達は結ばれる運命なの)
喜びで表情が緩む。
1メートル…
男性の瞳にもヒカリが宿っている。
鞄からお互いの右手が徐々に抜かれていく。
そして…0メートル。
とうとう身体を密着させることが出来た。
お互いの左手は相手の背中にまわり、右手は
右手はお腹へと。
握った刃物は仲良く内蔵へと到達して-
女性はこの上もなく恍惚とした表情で男性を見上げる。
-彼を私だけのモノにしようと思ってたのに、彼も私を自分のモノにするつもりだったのね-
(これで、本当にひとつになれるわ)
想いを伝えよう。
「あいしてる」
驚愕に目を見開く男性。
こんなハズでは無かったと-
ただ誰かを傷つけてみたかった。
恐怖に歪む顔と断末魔の叫び声が聞きたかっただけなのに。
(なぜ、こうなった…!)
腹からドクドクと流れる赤黒い液体。
耐えることなど不可能な激痛!!
嫌だ。怖い。助けてくれ。
(死にたくないっ)
快楽の生け贄にするハズだった女は、笑っている。
微笑みを湛えたまま、崩れ落ちていく。
女の右手は包丁を握ったままだ。
倒れながら俺の腹を裂いていく!
左手で掴んだ背中の服も離してくれない。
そうして-
幸せそうな女性。
恐怖に満ちた男性。
対極な表情をした二つの遺体が、ひとつに重なり道に横たわる。
-完-
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