108人が本棚に入れています
本棚に追加
「……雅、お前学校では先生つけろってあれほど……
……って、どうしたんだその子?」
リクと呼ばれた保険医の先生は、目を見開いて私を見た。
サッと思わず、ミヤビ先輩の背後に隠れる。
「……なに、雅の彼女?」
「馬鹿じゃないの。
この子のケガ、見て貰える?」
腕を引かれて前に出されると、座って、と肩に手を置かれた。
素直に従って、丸イスに腰を下ろす。
「……」
何か、言われるかな。
何か、聞かれるかな。
…………嫌だ。
混沌とした苦い感情が絡まり合って、俯いてしまう。
そんな私に、
先生は落ち着いた、とても優しい声で、語りかけた。
「初めまして。
俺は橘 陸冶って言います。
君の名前、良ければ教えてくれるかな?」
深く心に沁みる優しい声に、少しだけ緊張がほぐれた。
「……園原、千衣子です」
最初のコメントを投稿しよう!