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この依頼での仕事着は、いつもの薄汚い繋ぎではない。
この仕事のためだけに支給されている黒のブラウスにスラックスだ。
顔を上げると、見慣れた顔がバスローブ姿で可笑しそうにこちらを見ていた。
「何よ、かしこまっちゃって」
「一応仕事なんでね」
部屋に入りながらブラウスのボタンを上から三つほど外す。
マーリンは良く俺に依頼をして来る。
赤みがかった茶色の髪、透き通るような白い肌、艶のある体。
俺より幾分歳は上なのか、色気に満ち満ちている。
「あら、一応だなんて失礼ね。しっかり仕事はしてもらうわよ?」
顎をその細い指で持ち上げられて、俺は怪しい笑みを浮かべた。
「もちろん」
もう何度、こうしてたくさんの女性と絡まりあって来ただろう。
多い時には一日で3人。
このような依頼は絶えない。
それが、最低ランクの俺に与えられた特別な仕事だった。
俺の部屋からは想像もつかない程に柔らかく、大きなベッドに2人で寝転ぶ。
素肌に肌触りのいい布団の感触が染みる。
「で、どうだ?」
「もう。余韻も何もあったもんじゃないわね」
ベッドの背もたれに寄りかかりながら聞けば、マーリンはうつ伏せに寝転んだまま顔を上げた。
顎下程まである前髪を色っぽくかき上げると、軽く目を伏せる。
「結論的に言えば、この塔からの脱出は不可能よ」
「根拠はあんのか」
「まず1つ目に、この塔から外へと続く道には全て高圧電流が流れる仕掛けがあるわ。この仕掛けを突破しない限りは外へは出られない」
やっぱりな。と思いながら、邪魔くさい髪をひとつに纏める。
「それに、突破できたとしても…あなたの耳にあるこれ」
赤色のタグに、マーリンの細い指が当たる。
「塔から出た瞬間にあなたの脳に強力な負荷が掛かるように設定してあるそうよ」
「強力な負荷?」
「ええ。二度と物を考える事も、感情を抱くことも、自分の身体を動かす事さえもできなくなる。意味、分かるわね?」
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