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「なるほど」
つまりは息をすることも出来なくなって絶命すると。
そうゆうことか。
「そして、この塔は宙に浮いている。特殊な装置を使わない限りは誰もここへは入れないし出ることも出来ない」
「…飛び降りる以外はね」そう呟いて、マーリンはゴロンと仰向けに寝転んだ。
「まあ飛び降りた瞬間、タグからの負荷も届かないままぐちゃぐちゃの肉片になるのが関の山」
「肉片…ねえ」
呟きながらベッドから出て、服を着る。
マーリンは俺に続いて起き上がると、ベッドに座る俺の背中に手を当てた。
「ねえ、ジン。どうしてそんなにも外の世界に出たいの?」
背中にマーリンの温もりを感じながら、俺は静かに目を閉じた。
「…昔、客が面白いもんを見せてくれたことがあった」
「面白い物?」
「……世界地図」
今でも脳裏にはその世界地図が色褪せることなく残り続けている。
広い大地、見たことの無いような地域の名前。
俺がいるこの塔なんてその地図に映らないほどにちっぽけで…。
それがすごく悲しくて、同時にわくわくした。
「この塔で生まれ、死んでいく。…そんな人生まっぴらだ」
「でも…危険すぎる」
「だったらあんたなら耐えられるか?なぜ捕まっているのかも、なぜ自由を奪われたのかも知らぬまま生きる事に…。そして、死ぬ事に」
俺の首にマーリンの細い腕が巻き付く。
後ろから抱きしめられていることに気づくと、俺は無意識に目を見張った。
マーリンの腕を優しく緩めて、くるりとそちらへと振り返る。
「…ごめんなさい、ジン」
「何が?」
「私は…無力だわ」
自分を責めているマーリンの頭にフワリと手を載せる。
あんたのせいじゃない。そう、伝えるように。
「マーリンからの情報、毎度ありがたいと思ってる。ごめんな、巻込むみてえになっちまって」
ブラウスのボタンを上まで閉めると、スクッと立ち上がった。
マーリンはそんな俺をベッドの上から見つめる。
「マーリンが居てくれれば猫に小判だ!」
笑いながらいえば、マーリンは一瞬ポカーンとした顔をした。
そして、あははははっと楽しげな笑い声をあげる。
「ほんとジンって、頭がいいんだか悪いんだかよく分からない」
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