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「…だから、こんなに用意周到に……」
「ジン。失敗は許されないわ。私も、あなたも」
マーリンの言葉に、俺は強く頷いた。
マーリンが失敗をすれば俺は外には出られないし、俺が失敗すれば、この身体はグチャグチャの肉片になるだろう。
「なあ…マーリン。ワケア民族を逃亡させて、お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私だって馬鹿じゃない。バレないように遠くからやるわ」
「…でも……バレないっつー確証はねえ」
「でもやるしかない。あなたをここから出すにはそれ以外に方法はないわ」
俺の頬を両手で包みながら、マーリンが優しく言葉をかける。
「それに」と言葉を続けるマーリンに、俺は口を噤んだまま彼女を見つめた。
「言ったでしょ?私は王女よ。…バレたからと言って、私に手を出せば国同士の争いになる。クー民族だってそんな後先考えないことはしない筈よ」
彼女の手に自らの手を重ねる。
優しく柔らかい彼女の手を、俺の手が難なく包み込んだ。
「マーリン…」
その時、俺の手に付く赤い生々しい跡に、マーリンの視線が移った。
それは、今日最初の客に縛られた跡だった。
マーリンに見つからないよう、袖のボタンも閉めていたってのに…。
マーリンは、俺の手首に触れるとゆっくりとボタンを外した。
「……痛い?」
「別に、もう慣れたよ」
フッと笑いながら言う俺に、マーリンは悲しげに顔を歪めた。
「まだ10代の子供が…こんなことに慣れちゃダメよ」
俺の手首に優しいキスを落とすと、そのまま赤い跡を見つめる。
「なんて、私が言えたことではないわね」
自虐的に笑う彼女を、優しく自分へと抱き寄せる。
俺よりも幾つも年上のはずの彼女は、今にも崩れ落ちてしまいそうな程に弱っているように見えた。
「ジン、よく聞いて。あなたはここを出てからの方が出る時よりもよっぽど大変な目に合うと思うわ」
「何で?」
「外の世界では、髪色で民族を見分けているから」
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