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「だけど、誠は…あんたを遺して逝った…!
誠は、全部捨てろっていったけど…我が子を捨てることなんて、出来ないじゃない…!!」
「―――ッ!!」
その言葉に、私は大きな衝撃を受ける。
現実を遮断するように瞼を閉じて、母は自分の闇の記憶の中へ。
「もう…拷問のようだった。一生懸命忘れようとしているのに、私がすでに忘れていた誠との小さな思い出が、あんたの仕草一つで簡単に蘇る!
耐えられなかった…!文香を見ていると、逆に誠がこの世にいないことを痛感するのよ…!!」
誰の声も聞こえないように両手で耳を塞ぎ、母は自分の闇の声だけ耳を傾けて。
「あんたは生まれながらに、誠からいっぱい貰って…妬ましかった…!!
私には何にも残ってないのに、あんたの中には誠がいる」
闇はどこまでも深く、濃く、心を侵してゆく。
かつて、私もそうだったように…
母は何年も、何年も、その闇を抱えて……
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