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ああ…そうか……あの時の母は……
3歳の私にはわからなかったけれど、今の私になら解る。二人の血を受け継いだ私だから解る。
やっぱり、お母さんの心は、あの時から留まったまま…
「お母さん……あたし、覚えてるの…」
泣き崩れる母は、私の声に反応して、顔を上げた。
「今日、パパのことを思い出したから…あたしの最初の記憶は、パパのことになったけど…
でも、今までずっと、あたしの最初の記憶として残っていたのは……ママなの」
3歳だった私と同じ母の呼び名で、私は語りかける。私と母の時間が、あの時に戻ってゆくように。
「ママが…ママがね……海に向かって、懸命に何かを捲いて…」
「それって……」
「『誠のバカ!何で一人で死ぬのよ!』って、私の横で泣き叫びながら、海に一心不乱に粉を捲き続けてた…」
「ふ…み……」
「そして、『パパを一人で死なせてごめんね。文香、ごめんね』って、私をぎゅっと抱きしめて、何度も何度も、私に謝って…」
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