最後の難関

52/58
前へ
/1116ページ
次へ
ああ…そうか……あの時の母は…… 3歳の私にはわからなかったけれど、今の私になら解る。二人の血を受け継いだ私だから解る。 やっぱり、お母さんの心は、あの時から留まったまま… 「お母さん……あたし、覚えてるの…」 泣き崩れる母は、私の声に反応して、顔を上げた。 「今日、パパのことを思い出したから…あたしの最初の記憶は、パパのことになったけど… でも、今までずっと、あたしの最初の記憶として残っていたのは……ママなの」 3歳だった私と同じ母の呼び名で、私は語りかける。私と母の時間が、あの時に戻ってゆくように。 「ママが…ママがね……海に向かって、懸命に何かを捲いて…」 「それって……」 「『誠のバカ!何で一人で死ぬのよ!』って、私の横で泣き叫びながら、海に一心不乱に粉を捲き続けてた…」 「ふ…み……」 「そして、『パパを一人で死なせてごめんね。文香、ごめんね』って、私をぎゅっと抱きしめて、何度も何度も、私に謝って…」 ・
/1116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23369人が本棚に入れています
本棚に追加