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「俺は、洋太(ようた)、志野(しの)…洋太。御免、女なんて言って」
「っ、安藤(あんどう)、梓…、いいよ、こんな名前なのがいけないんだから…」
初めて会った梓と今の梓じゃ全く違う人のようだった。昔の梓は卑屈で、マイナス思考で、怖がりだった。いや、怖がりなのは変わってないけど。
「ばっか!俺、お前の名前好きだよ。」
「は!?」
「綺麗じゃん、梓って。ピッタリだよ、」
それを聞いた梓が俺に笑いかける、嬉しいような恥ずかしいような表情で俺に笑いかけるから、その顔が俺の胸を締め付けたのを感じた。
それから俺達は週に一回父親の家で遊ぶようになった。母さんたちには内緒で、遊ぶその時間が楽しくて、俺も梓も沢山笑った。
そのうちに俺が梓って呼んでも嫌がらなくなって、梓の話を家でもするようになった。母さんはその話を聞いていてにこにこと笑っていた。
けれど、その幸せも長くは続かなかった。
その日は母さんが父さんの家に来てた時に俺たちはいつもと変わらず父さんの家に来てた。
俺はその時に事の重大さに気が付かなかったんだ。梓を女の子だと思い込んでいる母さん。
梓が男だったらどうなるか、なんて気付きもしなかったんだ。
この楽しい時間が梓を苦しめていたことにも気付かなかった。
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