君のいた街

彼の一日

彼女はよく笑う人だった。
彼女は優しい人だった。
彼女はあまり自分のことを話さない人だった。
彼女は要求することが苦手な人だった。
だからあの時、気が付くべきだったんだ。
「近くにいるんだけど、今から遊べる？」
彼女がそう言ったとき、どうして僕はその気持ちをわかってあげられなかったのだろう？
わかるはずもない。初めて彼女から誘われたことに浮かれきっていたのだから。
「もちろん。どこへ行けばいい？」
指定された待ち合わせ場所は僕がいたところから二十分くらい。急ぎ足で向かうと、彼女が僕を見つけて手を振った。
「久しぶり。って言っても先月会ったばっかりか。」
その日のことが遠い昔のように感じられる。
僕が待ち合わせ場所に行くと、彼女はぼんやりと遠くを眺めて好きな歌を口ずさんでいた。
黙って近寄った僕の気配に視線がこちらを向く。僕には見せたことのない鋭い目線、いつもの彼女からは想像もつかない冷たい表情。
一瞬でいつもの笑顔に戻ったけれど、知らない顔に少しドキッとした。