彼の一日

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「どこに行く?」 「そうだなぁ……どこがいいかなぁ……」 少し俯いて考える彼女。僕は時計を見た。昼過ぎだ。 「お腹すいてる?まず食事して、それから決めようか。」 「うん。そうだね。」 いつも僕が行く店が近くにあったので、そこに行こうと決めて歩き出す。 この辺りをよく知らない彼女は道がわからないので少し遅れて着いてくる。 手を体から少し離して広げると、彼女の手が僕の手の中に滑り込んできた。急に近付く二人の距離。少し冷たい小さな手が遠慮がちに僕の手を握る。 その手をぎゅっと包み込むと、照れくさそうに彼女が笑った。 お店に着いてカウンターの席に座る。僕がいつも食べているメニューを教えると、彼女もそれにすると言った。 注文が済んで、水を少しずつ口に含みながらそわそわと店の中を見回す彼女を横顔を見ていた。 僕の視線に気付いた彼女が不意にこちらを向き、首を傾げる。 「どうしたの?」 「ん、いや……痩せたなって思って。」 「そう?最近忙しかったからかな。」 と言って頬を擦る彼女。僕は言った。 「ところで、どうして突然来たの?」 「ちょっと息抜きにね。ごめんね、いきなり呼び出したりして。」 「突然だったからビックリしたけど、平気だよ。」 「……ありがと。」 彼女が微笑む。その顔に胸を焦がすような感情が込み上げてきた。 注文したものがテーブルに並び、僕たちはそれを食べた。 「美味しいね。」 「うん。」 そんな少ない会話を交わしながら食べて、店を出た。 「ごちそうさまでした。」 店を出るとぺこりと頭を下げて彼女が言う。僕が手を差し出すと二人の手が自然に繋がる。 恋人のような距離。でも恋人ではない二人。 何度もデートを重ねて、それでもこの距離以上の関係を望むことはなく過ごしてきた。 だから僕は彼女が普段何をしているのか知らない。彼女も僕が何をしているのか知らない。 二人にとって、会ったときに見せるお互いの姿だけが全てなのだ。
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