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羽野和樹。30歳。エリート大学卒業の国税庁勤務。
結菜にとって眩しすぎる程の学歴・経歴は思わず恐縮してしまう程だった。
家柄も、同じく国税庁勤務の父と優しい専業主婦の母に育てられた和樹は、結菜のやっと何とか不景気の煽りを受けながらも毎日潰れない様に必死に自営業を営む父とパートタイムで働く母とは釣り合わないのではないか。
そう思うと不安で仕方なかったが、『結菜が好きで結婚するんだからそんな事関係ないさ。』と和樹が言ってくれた。
きっと厳格な家庭に育ったんだろう。
『結婚するまで結菜を大切にしたい。だからそれまで体の関係は持たない。』と言われた時、本当に大切にされているのだと思った。
思ったのだけれどー………。
結菜は正直、和樹に抱いて欲しいと望んだ事はあった。
愛する人に抱かれたい。1つになって愛を確かめ合いたい。
一度だけ、和樹に言った事がある。
その時、『女性がそんな事を言うんじゃない。はしたないよ。』と和樹は顔を曇らせた。
その日以来、一度もその事を口に出した事はなかった。
和樹に嫌われたくなかったから。
『あたしを大切にしてくれているんだ。』
結菜はそう自分に言い聞かせた。
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