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夜九時を過ぎて、構浜タウンサイトの編集部にはまだ四人が残業をしていた。
郁子のチームは、全員帰ってしまっていて、郁子だけが、自分の書いた記事の読み返しをしていた。原稿を何度か自分で確認した後、「これでよし」、といって、机の上を片付け、飲み残しのコーヒーを飲み始めた。
郁子は、構浜タウンサイトに入って四年で、その前は、主婦をしていたが二年半で離婚していた。
結婚前は、大学新卒で中規模の出版社に入社し、女性ファッション紙の編集の仕事を四年間担当していた。
その出版社にいる時に、取材に行った家具の輸入会社の社長の甥で、三十二歳の財務課長をしていた吉岡博則と付き合うようになり、一年後に結婚したのだった。
吉岡は、仕事に対してはまじめで、よく残業もしていて、帰宅するのは、いつも夜十時を過ぎていた。お酒を飲んで帰ってくることも時にはあるものの、深酒はせずに、付き合い程度に飲んでいるようだった。
女性関係については郁子に疑われるようなことをすることもなく、一年ほどは平穏で楽しい結婚生活が続いていた。
郁子としては、結婚生活にあまり不満はなかったけれど、雑誌編集の仕事をもう少し続けたいと吉岡にお願いしてもなかなか許してくれず、ほとんど籠の中の小鳥のような生活に少し飽きがきていた。
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