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五月のゴールデンウィーク明け、街には青葉の香りがさわやかな風の中に溶け込み、道行く人の半袖の服を緩やかに揺らしていた。
フリーカメラマンの川島泰輔は、健康器具メーカーの新商品の撮影をするため、構浜市内にあるBスタジオの中にいて、時折、窓の外を見遣り、この季節のすがすがしい空気感を想い浮かべていた。
新商品は、女性の二の腕やウエスト、腿、ふくらはぎなどの余分な脂肪の燃焼を促す器具で、午前中に商品単体の数カットを撮影し終わり、午後からは女性モデルと商品を一緒に写すことになっていた。
女性モデルが商品を実際に使いながら使用方法をイメージさせるカットを撮る段階になると、健康器具メーカー側の担当者と広告代理店のディレクターがどういうイメージにするかを再度検討し始めた。二人の話し合いは時間がかかりそうな雰囲気だったため、泰輔は話がまとまるまで、気分転換しようと、外の空気を吸いに出た。
ペットボトルの紅茶を片手に持ち、レンガ花壇の縁に腰掛け、気持ちのいい風に吹かれながら、花壇に植えられているドウダンツツジの鮮やかな新緑を見たり、道路を次々と走り去って行く車をなんとなく眺めていた。
泰輔は、三十一歳、二年半前に親方の松崎から独立し、一人暮らしの1LDKの賃貸マンションを住居兼事務所にしていた。松崎の下で働いていた時に懇意になった何人かの担当者を頼みに一人立ちしたのたが、まだ、仕事の三分の二は松崎から回してもらったり、得意先を紹介してもらったりしていた。それでも、少しずつ自分の顧客を掴み、今年に入ってから、仕事量も増えたこともあって、二十一歳のアルバイトアシスタントを一人雇っていた。
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