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郁子は最近、泰輔のことが気にかかるようになり、会う度に大人の男としてのたくましさを感じるようになっていた。
以前、松崎の下にいるときは、好感のもてる青年という感じで、まだ大人の男という見方ができなかった。それから、独立したての頃は、一人でやっている不安というのが表情に出ていたため、少し心配な感じがしていた。
ところが最近は、アシスタントも付いたせいか、仕事への取り組みにも責任感が強くなり、安心して任せられ、信頼できる男に成長していた。
そういった姿勢が郁子の女性としてのハートにも、ちくちくと刺激していて、つい、泰輔の目を見つめたままになったりもしていた。
泰輔の方も見つめ返してはくれていたけれども、自分のような三十代半ばのバツイチを相手にしてくれるわけないかと思い直し、泰輔への想いを頭の中から追い出したのだった。
郁子は、少しお酒を飲みたくなり、月に一、二度、食事やカラダの関係をしている木村一英に、今から、会えるかとメールすることにした。
木村は、県内にある婦人雑貨店五店舗のオーナーをしている四十五才で、結婚して子供もいるのだが、妻と子供は二年前から妻の実家に戻っていて別居状態になっていた。離婚の話が出ているものの、条件が合わないまま時間だけが過ぎ、こう着状態になっていた。
木村との付き合いは二年前からで、別居状態になった原因の一端にもなっていたが、その前から木村の夫婦間は気まずくなっていて、お互いに別れる気持ちをある程度は固めていたようだった。
郁子と木村の関係も、つかず離れず、ずるずると続いているといった感じになっていて、郁子は、新しい彼が見つかれば、木村との関係から脱却しようと思っていた。
木村から、伊瀬崎町のいつもの飲み屋にいるからというメール返信がきて、郁子は、会社を出る支度を始めた。
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