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英理が立ち去るまで、棍を構えていた天翔は、その姿が消えてからやっと警戒を解いた。そして、あずまを見る。
「あずま坊ちゃん。大丈夫か?」
目の前で起きた出来事に呆然としていたあずまは、やっと落ち着いたようだった。
「あぁ、大丈夫。セレ。今の男は・・」
セレは内心でどきりとした。何も聞かないで欲しかった。あずまの前では『セレ』でいたかった。
あずまはセレの表情を見て、小さく俯いた。
「…言いたくないなら、何も言わなくていい。何も聞かないよ。セレが話してくれるまで、待つから。」
その言葉に、セレははっと顔をあげた。
今の男のことも、セレとの関係も。疑問に思わない筈がない。それでも、セレの心情を慮って何も聞かない、優しい人。
「はい・・。」
深く礼をする。この優しい人の側に、いたいと願う。自分がいるせいで巻き込まれるかもしれないなどもう遅い。もう目をつけられている。
それなら。側で守り、共にあろうと。自分の居場所を作ってくれるあずまにセレは笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、あずま様。」
その言葉に。あずまは一瞬面食らったかと思うと、次いで笑みを浮かべた。
「そろそろ帰らないと。」
その言葉に、頷いて歩きかけ、セレは足を止めた。
「・・すいません、最後に、どうしても行きたいところがあるんです。先、行っていて下さいますか。」
あずまは眉を寄せた。
「今度はどこに行く気だ?」
先程あずまに何も言わず抜け出したのを根に持っているのか、あずまの声は少し険を帯びている。
「必ず後で向かいますから。」
そう断ってその場を駆け出す。
――最後に、彼女に伝えたいことがあった。
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