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旅人がこの世界に転送されて来たのは人間の決めた時間でいう二十年前。胎児からまた始め、十二才の頃ようやく『覚醒』。
また女性体だったのは、子を孕むことのできる子宮を持つからなのか。
しかし時代が悪い。女と云うだけであらゆる暴力の標的となる。
でも、それは善悪が曖昧な太古からあったことだ。雄に還った男に、今更理性を説いても無駄だ。
旅人は歩き始めた。
もう『人間』が住める土地は残り少ない。もうこの世界は20%しか、人間が生活できないのだ。
荒野、毒と化した海、突然変異した狂暴な動植物-。
『我々』はそれを、世界の黄昏と呼んだ-
予感はあった。
度重なる天災で世界が荒廃して行く中、対立が激しくなった人間達が世界を巻き込み大戦を起こしたのだ。
様々な兵器が大地を、人間を焼いた。
最終兵器と呼ばれた『それ』が世界中に墜ちた。
旅人は、その時予感した。
この『世界』は終わりを辿り初めている-!!
五百年が過ぎた。
旅人にとって、こんなに時間をおいたのは珍しい。
けれど、また遣わされたということは、まだ試されていると云うことだ。
結果がどうあれ、生まれたからには責任をもって見守らねばならない。
旅人は腐った大地を歩く。
饐えた匂いが立ち込める荒野、濁った海。
いつの間にか人喰いに進化していた草食獣、大型化した狂暴な動物。
ああ、随分見ないうちに変わった。
人間の死肉を貪る巨大な黒い鳥達を見たとき、もはや太古と云うべき魂の記憶が蘇る。
『あの時』はまだ、人間は兵器をもってなかった。
あの恐ろしい火は、人間が持つべき物じゃなかったのだ。
生物の生態まで狂わすとは。
…虚しいばかりの日々が重なる-
旅人の足どりは重くなる。
何処へ行っても戦と飢えに苛まれ絶望している場面しかなかった。
人々の手には銃が握られ、容赦なくその銃口が向けられた。
また、原因不明な病に苦しむ者や、人買いに売られる哀れな奴隷達もいた。
何処まで行っても、もう駄目かもしれない…。
どうして、ここまで来てしまったのだろう…。
旅人はいつの間にか、諦めに似た焦燥を抱く。
-…。母さん。私は何処へ行けばいいのですか
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