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「れい子ちゃん」
振り返ると、髪を結い上げたよう子ちゃんが立っていた。
「…なに?」
「これ、前に言ってた資料」
受け取りながら、よう子ちゃんの心を読んでみる。
表情はいつも通り微笑っていて、心なんて全然わからない。
「ありがとう」
椅子をくるりと回してよう子ちゃんに背を向けると、ヒールの靴でぐらぐらと危なっかしく、向こうへ行ってしまう。
しばらくすると、またその不規則な足音が聞こえてくる。
「はい」
マグカップ。湯気。
「コーヒー、空だったから」
私にマグカップを握らせると、デスクにあった紙コップを回収してまた遠ざかっていった。
このマグカップはよう子ちゃんのものだ。
急いで洗ったのか、少し水滴が付いて冷たかった。
いれてくれたコーヒーはもちろん、温かいブラックだった。
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