3/10
前へ
/73ページ
次へ
「れい子ちゃん」 振り返ると、髪を結い上げたよう子ちゃんが立っていた。 「…なに?」 「これ、前に言ってた資料」 受け取りながら、よう子ちゃんの心を読んでみる。 表情はいつも通り微笑っていて、心なんて全然わからない。 「ありがとう」 椅子をくるりと回してよう子ちゃんに背を向けると、ヒールの靴でぐらぐらと危なっかしく、向こうへ行ってしまう。 しばらくすると、またその不規則な足音が聞こえてくる。 「はい」 マグカップ。湯気。 「コーヒー、空だったから」 私にマグカップを握らせると、デスクにあった紙コップを回収してまた遠ざかっていった。 このマグカップはよう子ちゃんのものだ。 急いで洗ったのか、少し水滴が付いて冷たかった。 いれてくれたコーヒーはもちろん、温かいブラックだった。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

257人が本棚に入れています
本棚に追加