『序章』

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いっこうに助けは来ない。だいぶ時間は経ったような気もするし、まだ10分と経っていないようにも感じる。 他にここから抜け出せないか。 海水ということは外に繋がっていると考えて間違いないだろうが、奥は少し進めば明かりも届かないような暗闇だ。 そんなところを無理して泳いで何かあった時の方が余程一大事になる。 辛抱強く待つしかない。 しばらくしたら誰かが異変に気が付いて助けに来てくれる。 靴も落ちる瞬間に脱げてどこかに飛んでいったから、きっと道に転がっているはずだ。 だからきっと誰かが気が付く。 それにこれだけの穴があれば、目を引かないわけがない。 立ち泳ぎから仰向けに体勢を変え、暗闇から自分の落ちた場所へ視線を向ける。 穴は思った以上に大きく、広い範囲に渡って亀裂をもたらしていた。
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