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不思議に思って持ち上げて見ると、中には食パンの耳が入っていた。
「食パンの耳?ってか、倫太郎が踏んだせいでぺしゃんこじゃん」
そうだ。
知らず知らずのうちに踏んでいたせいで、何かもう残念なことになっている。
「まさかこれが、君の言ってるご飯ってこと?」
修吾はしゃがみ込み、餓鬼に目線を合わせた。
目が隠れているから合っているかどうかも分からないが。
餓鬼はこくんと頷くと、俺を見上げる。
そのときに前髪が横へ流れ、わずかに顔が見えた。
意外に綺麗な顔立ちをしているそいつだが、肌は黒ずんでいて汚い。
ただ、目に強い光を称えているのが印象に残った。
「……返して」
そう言って手を差し出して来る。
「おいおい、まさかこれ食う気か?やめとけ薄汚ぇ」
俺が踏んでおいてあれだが、このパン耳はどこか異臭を放っている。
こんなもん食ったら、腹下すんじゃねぇ?
「あのさ君、これいつの?」
修吾が訊ねると、餓鬼はそちらに視線を移す。
「……5日くらい前に、公園で鳩に餌やってるおじいさんに貰った」
「え?」
キョトンとする修吾を尻目に、餓鬼は再び手を差し出してきた。
「あたしのご飯、返して」
揺るぐことのないしっかりとした声音でそう告げてくる。
俺はその目を見て、何故かこいつに興味を抱いた。
「こんな腐ったもんより、もっと良いもん食わせてやるよ」
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