星降る聖夜

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 並んで立つと顔のパーツは同じでも、柔らかな表情のポルカと挑戦的な生意気顔のカストルでは、纏う雰囲気が幾分違う。 そんな姉弟が見上げる夜空に誇らしげに輝く双子大星は、すぐ隣の星座にある紅星<ステラロッサ>と共に、夜空の代表格。 それぞれの名は、カストーレとポルーチェ。 それに由来する名を自身の子供に付けた二人の『母』は、この明星が余程気に入っていたらしい。 「ってか寒っ……ポルカもこれ飲むか?」  コートを羽織ったまま、寒さに身を小刻みに震わせるカストル。懐から紅茶らしきものが入った二本の水筒を取り出し、うち一本を、ポルカの方へ差し出す。 「まあ、また調理場からこっそり持って来たんですわね。もう……。でも、ありがとう」 ポルカはちょっぴり困り顔をした後、笑顔で水筒を受け取った。  二人は子供の頃から邸の使用人達に、食料を勝手に持ち出さないようにと言い付けられていた。 慎重派なポルカは仕方無しに従い続けているのだが、活発なカストルには窮屈極まりないのだろう、歳を重ねる毎にしばしば言い付けを破るようになった。 使用人達も初めのうちは叱っていたのが、彼があまりに頻繁に悪戯を起こすので段々面倒臭くなったのか、最近では注意も緩慢だ。  水筒はよく温まっていて、ポルカはそれを手に握ることで体に感じる寒さを和らげた。 そして蓋を取ると同時にゆらりと漂った芳香に、頬を綻ばせる。 「樹氷花<ジュヒョウカ>茶、ですわね」 そっとすすれば、口の中にまで甘い香りと風味が広がってゆく。樹氷花という可愛らしい桃色の花から抽出したティーは、女性や子供でも飲みやすく、多くの人に好まれている。 二人の母もまた、それが好きだったという。  その母は二人が六歳のとき、邸に詰め掛けた大勢の軍人に連れられて出て行ったっきり、帰って来ない。 『かあさまはどこに行ったんですの?』 幼いポルカは家庭教師に何度も尋ねたが、答えはいつも同じ。 『長い長い、旅に出たのですよ』
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