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昨日の雨に続き、今日も空から淡い雫が優しく滴り落ちている。
俺は真っ黒な傘と、もう片手に花束を持って、昨日事故があった場所へと歩いた。
昨日、あの橋の中途で、一台の乗用車が、突然飛び出した猫を避けるためハンドルを思いっきり切った。
結果その乗用車は歩道を突き抜け、新品の手すりにぶつかったが、運転手は奇跡的に無事で、たまたま歩道を歩いていた男性も、とっさに道路に飛び出して助かった。
そう、その男性こそ、この俺だ。
俺は京助に助けられたのだ。
京助は俺を助けるために、俺の目の前に現れ、そして俺を助けたのだ。
橋の中途まで来ると、そこには潰れた花束と、道路には猫の死体があった。
どうやら、京助の時に死んだ猫は片付けられたらしく、何故か昨日の猫が横たわっていた。
事故の後処理はされたはずだ、京助の時も、手すりを直す時に猫の死体は片付けなかったのだろうか。
この橋はなんとも不思議だ。
また、ひょこっと京助の声が聞こえてきそうだ。
俺は道路に横たわる猫を引きずり、潰れた花束の上に置いた。
その横に新しい花束を置き、またもや俺は空を見上げた。
曇天の空から、不規則に差し込む光。綺麗な光景だ。それはまるで天国への架け橋のようだった。
きっと、京助もあの架け橋を渡っているのだろう。
中途と猫には注意しろよ、今のあいつにそう言いたい。
俺は傘を閉じ、重い腰を曲げ、それを猫と花束の前に置いた。
その時にはもう雨は止み、ちょうど天国への架け橋が俺に降り注いだ。
俺は上を見上げ、目を細めながら言った。
「ありがとよ‥」
今来た道を歩き出そうと、俺が右足を上げたその時。
「どういたしまして」
後ろから、京助の声が聞こえた。
俺はふっと笑い、振り返らずに歩き出した。
完
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