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京助が死んで数日、彼の死体も見つからず、見つかったのは水浸しの車だけだった。
「京助、お前…まだ生きてるよな?花束なんかいらないよな?」
俺の声は、京助に届いているだろうか、雨の音にかき消されてはいないだろうか。
俺は死んじまったよ
どこからか、京助の声が聞こえた気がした。
きっと届いたのだ。俺の声が。
「そうか、じゃあ花束…置いとくよ」
実に不思議だ。幻聴と会話をしたのは初めてだ。
雨の音にも負けず、すっきりと聡明に聞こえたその声は、間違い無く京助のものだ。
なあ、待てよ‥一緒に歩かないか?
まただ、俺が歩き出すと、それを止めるかのように京助の声が聞こえた。
いるのか?首だけ後ろにやっても、見えるのは真っ黒な傘だけだった。
この先に…京助が?
「んなわけないか、気のせいだよな…」
俺はふっと笑い、右足を上げたその時だった。
「健太!俺だよ、どうしたんだよ!」
またもや聞こえた京助の声、でも今回は雨の音と混ざり合って聞こえる。まるで、すぐ後ろに京助がいるみたいに。
「京助?」
傘も連れて振り返る。少しずつ景色が変わっていく、川が見える、町が見える…そして、完全に後ろを振り返った時、彼は笑っていた。
「京助……」
真っ黒な傘が地面に落ちた。
傘は地面に溜まった水を弾き、音を立てた。
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