第六章

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「…直哉にあの後会ったんだ」 ぽつりぽつりと、分かれた後の出来事を話していく。 また鮮明に思い出し涙が頬を伝う。 「…ふっ、くっ…言わなきゃ‥もう隠せなかったんだ」 好きで好きで好きで どうしようもなかった想いを漸く伝えられた。でも人間は欲が出る生き物で その先に進みたいと…また新たな欲が増え、そんな自分が嫌で。 胸の内を話していくと涙が溢れ出す。 今更こんな号泣するなんて思わなかった。昨日も泣いた筈なのに。 …あぁ。そうか俺は 吐き出したかったんだ。 気を張らずに、子供みたいにワンワン泣いても受け入れてくれるこいつに。 「頑張ったな」 柔らかい声、抱きしめられ伝わる体温。直哉とは違う香りだが安心するシトラス系の香り。 「…直哉くんも馬鹿だよな。こんなに想ってくれる奴居ないよ」 甘く優しく俺を甘やかす尚吾。 お前に想われても返すことの出来ない俺を、大事にしてくれる。 「…ごめんな…」 謝る俺に『馬鹿だな』って言ってポンポンと背中を叩く。 「言ったろ。俺はお前をドロドロになるくらいに甘やかす存在だって。…でも、辛いなら俺を選べばって思う」 …何時か直哉の事を忘れて、尚吾を好きになる日がくるのかな。 でも、今はまだ…直哉の事を想って忘れる事は出来ないだろう。 「馬鹿だな…尚吾は馬鹿だ」 「はいはい。馬鹿で良いよ」 ギュッと腕を回すとクスクス笑われる。何時か…笑って過ごせる日が来る時に側には誰が居るのかな。 …俺も笑って居られる未来があると信じて前を見よう。 、
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