はじめに

3/10
前へ
/90ページ
次へ
坊っちゃまは、私がカレンダーを何枚、何十枚捲ろうとも、お部屋から出ておいでになられません。 それも、日捲りカレンダーではないのです。ほんの三枚捲れば季節も変わる、月捲りのカレンダーです。 だから私はもちろん、お庭に植えられた木々が、彩をつけて、生命を芽吹かせるのを何度も見ています。 それはきっと、坊っちゃまの目にも映り、深い感動を与えているのに違いないのです。 ……しかし、坊っちゃまは、部屋からおいでになられません。 昔のように私に向かい、 「とても綺麗だね。素晴らしい。この上なくね」 と言って、笑みを浮かべてはくれないのです。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加