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ポッカリと仕事が空いた平日の夜。
ロケ先のホテルを抜け出て夜桜見物。
‥桜が綺麗に咲いてンなぁ。
コンビニで買ったビールを持ってフラフラ川沿いを歩く。
人のいない場所に陣取り、ビールを開ける。
プシュー、
「‥ん、ウマッ!‥」
空を見上げると桜の花でほんのり明るい。
「何一人で飲んでンねん。」
振り向くと、くわえ煙草の井本が立っていた。
よぉ、と俺は片手をあげ返事をする。
然り気無く、横に座って勝手にビールを飲みだす 。
「それ俺のやけど‥‥」
「ええやン‥‥夜桜見物か?」
「おん、‥部屋の窓から眺めとったら、‥‥なんかな、したなってン。」
「誘てくれたらええやン‥‥」
「んっ?‥しんみり眺めンのもええかなって‥‥」
ビールに口をつけて横目で見る。
今ここで《好きや‥》ッてゆうたらどんな顔するやろか。
つい考えてしまい口の端で、ククッ、と笑ってしまう。
「何がおもろいねん‥」
怪訝そに俺の顔を見る。
好きや‥ってゆう代わりに
「誘ったら一緒に桜見物したか?」
「ウーン、せやなぁ、断った。」
「せやろ。」と、二人で笑う。
風か吹いて桜が舞う。
「‥中々ええもんやなぁー‥お前と二人で眺めンのも。」
「せやな、‥ええもんやなぁー‥」
風が吹き桜が舞う。
目の前に散りゆく花弁を目で追う。
河の水面に落ち流れてゆく。
ゆっくりと‥近づき、遠退き、‥離れてはくっつく‥‥‥
「初桜 折しも今日は よき日なり‥‥ッてか?」
フッ‥と、俺を一瞥して
「芭蕉かいな‥‥俳句でも詠むンか‥柄にもないことを。」
「イヤ、なんとなくや‥」そう言って、 1缶目を飲み干す。
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