春雷

3/4
前へ
/384ページ
次へ
いきなりの雨で一つの傘を差して高校生が二人で入っている。 少し羨ましい。‥ ‥まぁ、ええおっさんが相合傘なんかでけへんよな。  第一濡れてしまうわ‥‥ 目で追ってみてると、 「何や、羨ましそやな。」と、笑われてしもた。 「やってな、あんなんしたこと無いもんなぁ。手まで繋いでや、幸せそやンか‥」つい、うつ向いてしまう。 「まっ、しゃぁないやン。おっさんがやっても絵にならんわ。」 最初の東屋に着いて、携帯を鳴らすと椅子の下から音が聞こえる。 「あったぁ。良かった‥誰かに見られたら危ないとこやわ。ありがと、珈琲奢るで。」 「うん?別にええょ。」 俺の返事を無視して側の自販機で珈琲を買う。 遠くだった雷は、段々近付いて雨はバケツをひっくり返したようだ。 どちらともなく椅子に腰掛け、手を繋ぐ。 黙ったままやけど、アイツの優しさが伝わってくる。 「だいぶ前の話やけど‥ベンチに座って喋るみたいな恋なんかでけへん、ってゆうたやんか?」 「‥いきなり何やねん。‥」 心を見透かされたようで恥ずかしくなる。 「‥ン?‥やっぱ、俺らはでけへんな。」 ‥そんなん改まってゆうなや。わかっとるがな!  落ち込むだけやン‥‥‥ 横目で俺の顔を見ながら、 「やってな、話せんでもお前の事がわかるし、やっぱ傍に居ったら‥‥」 チュッ‥‥ 「キスしたなるもんな。喋るだけなんかムリ!」 「‥えっ!‥」 不意打ちの男前発言に言葉がでない。 不敵に笑う井本を見る。 「やから、他の奴を羨ましがるな。‥‥」 「‥ぉん。‥ごめん。」 そして、黙って軒から落ちる雨垂れを眺める。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加