心の染み

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舞台を終了してスーツを片付ける。 先輩芸人に挨拶を済まして帰り仕度完了。 ‥はぁ、気が重い。 エレベーターを待っていると、いつの間にか横にアイツの姿。 ‥このまんま、バックレようと思とった のに。 低い思い詰めた声で‥ 「俺ん家にきてや‥」 返事もせんと居ると、タクシーを勝手に捕まえてそのまま藤原の家に‥ ‥珍し、いつも俺ん家やのに。 部屋に通されて煙草を吸いながらボンヤリと思った。 「なんもあらへんけど。」 そう言って、テーブルに手料理を並べる。 ‥ほぼ、完璧やな。 苦笑いを浮かべる。 蓮根の金平、酢蓮根、トマトとモッツァレラのサラダ、冷製パスタ、だし巻き玉子、‥ ‥居酒屋か。まっ、酒のアテにはちょうどええかも。 「なんや、冷蔵庫の片付けみたいで悪いけど‥」 並べられた皿に手を伸ばす。 「ウマッ。‥」 思わず口から出ると、アイツは心底嬉しそに笑い俺が食べるのを見ている。 ‥なんや、話があったんとちゃうんかい。 けど、久しぶりの手料理が旨くて、嬉しくて、あえて俺からも話を振らずにただ、二人でしみじみと飲んだ。 微酔いも通りすぎ、空の缶が並び始めた頃、仕方なく俺から口を開いた。 「‥で、今回も相手が誰かゆわんのや。‥」 「‥ぅん‥‥」 俺の正面で項垂れる。 「じゃぁ、何を聞いてほしいねん。俺はお前の元カノなんか知らんし‥‥」 ‥まぁ、知りたくもないけど。 「あ‥のや、俺をみて、どう思う?」 「はぁ?ただの酔っ払いのおっさんやン。」 上から下まで眺めて言い放つ。 「そっ‥‥か‥‥」 ひどく落胆した顔で虚ろになる。
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