心の染み

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何かを決心したように酒の器を握り締めている。 ‥心、決まったんや。 「‥元カノやったら、そんなお前の事知ってるやろうから‥‥ ‥‥コクったらええねん。 大丈夫やって、まだ好きやってゆうたらええねん。」 ‥ハハハ、俺何ゆうてんやろ? もう、消えてなくなりたいな‥‥ 「せやな‥‥ぅん、そうする。 ‥‥電話してみる。」 「そっ‥か、頑張りや。‥ほなっ、俺帰るわ。‥‥」 立ち上がろうとすると腕を掴まれて、 「居っててや。‥俺、向こうでかけてくるから。 お願いやから、絶対に居っててや。」 必死で懇願するもんやから、ええょッて、ゆうてしもた‥‥ あれから、だいぶ経つけどまだ部屋から出てけぇへん。 上手い事いったんやろか? それで話が弾んでンやろな‥‥‥ 何してんやろ‥‥‥俺 心の染みがジワジワと広がり始める。 いつか、俺の心は真っ黒になンやろな‥‥ そうなったら、‥楽か‥? トゥルルル‥‥‥トゥルルル‥‥‥トゥルルル‥‥ ポケットから携帯を出して相手も確かめずに出る。 「はい。」 「‥俺、‥そのまま訊いてや。‥まだお前の事が好きやねん。‥」 ‥なんの冗談や? 「な‥何やお前、俺で練習せんでもちゃっちゃとかけぇや。‥」 「ちゃう、‥これ、本番や。俺な、ずっと昔から‥‥」 「嘘吐くな!別れようッて、ゆうたンはお前やろう!」 怒鳴りつけてしまう。 「確かにゆうた。けど、俺な、ずっと後悔してた。‥アホやから、1つの事しかでけへんねん。‥‥ やりたい事を選んだ時、ずっとお前と一緒に居れる漫才を取ってン。‥ けどな、お前の優しさに甘えたかった。 やから‥誰かに惚れた振りしてお前に相談して独り占めしたかった。 例え、一時でもお前と二人きりになりたかってん‥‥ 俺、欲張りやから‥‥‥ 2つとも欲しい‥‥ なぁ、まだ俺の事‥‥」 そこまで訊いて電話を切り、反射的に立ち上がり藤原のいる部屋を開ける。 「‥井本。‥」 凄く悩んだのだろう。髪がかきむしられて、ボサボサになっている。 目には情けなく涙の痕があり、口元は‥‥噛み締めすぎて血が滲んでいる。 どこからみても、格好悪い滑稽な姿‥‥ だけど、俺にだけ見せる本当の藤原の姿‥‥ 愛しい、愛すべき‥‥本来の藤原。
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