七夕

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一人きりの部屋で風呂に入りたかちゃんの事を想う。 仕事はいつも通り‥ ただ、二人きりの時間が無いだけ 無茶苦茶、冷たい訳や無い‥ ただ、目を合わさんだけ 何か理由があンやろか? 訳がわからず風呂からあがり、晩飯の仕度をする。 今年は雨模様の様で段々と厚い雲が垂れ込めてきた。 織姫さんと彦星さんも、今年の逢瀬は雨でお流れやね‥‥ 素麺を湯がきながら、ボンヤリ窓の外を見る。 まぁ、それに比べたらまだ俺はましなんかな。 明日も仕事で会えるしさ‥‥ けどな、会いたいじゃなくて逢いたいねんて‥ そんな事を想いながら、テーブルにつく。 見計らった様に携帯が鳴る。 「はい、‥」 「俺、今から行くから鍵開けといてや。」 返事も聞かずに切れた。 たかちゃん?‥何で。鬱陶しいッて、ゆうてたやんな。 と、思いつつも鍵を開けに立ち上がる。 ピンポーン!ピンポーン!‥‥ 忙しなくチャイムが鳴り、犬の鳴き声が聞こえる。 ‥?‥何やねん 「一裕!開けんか。」 二人きりの時だけ‥‥ 仕事を離れたプライベートの時だけ‥‥ 名前を呼んでくれる‥‥ いつものたかちゃんの声がする。 「ぉん‥」 ガチャ。 「電話したのに開けとけや。」 そう言った、たかちゃんの腕から二匹の犬が飛び降り部屋のなかを俺の犬と走り回る。 「何で?‥」 「七夕デートやろ?牽牛が牛ならぬ、犬連れて逢いに来たったで。」 「でも、鬱陶しいッて、‥‥」 フワッと笑うと、手に持ってた箱を置き、俺の頭をクシャクシャッと撫でる。 「ン?風呂に入ったンか?髪‥濡れてンな‥」 「‥ン、‥」 さっきと違い、余りに優しいので顔を見つめてしまう。 「まっ、説明するから中に入れてや。」 その言葉で自分が立ちはだかっている事に気がついた。
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