檸檬

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俺を見る瞳がいとおしげに揺れた気がした。 ぼんやり藤原の瞳を見つめ返していると、一度止まった手が再び動き出し俺の髪を梳く。 「檸檬好きやから嬉しそに笑ったン?‥ それとも‥‥‥ 女の子からやから嬉しそに笑ったン?」 「ン?‥‥あぁ、単に差し入れが嬉しかってン。」 「そうなんや‥‥‥」 そして、小さい声で良かった‥と、呟くと 「檸檬‥‥食べるか?」 「?‥」 「俺‥今日持ってんねん。」 そうゆうて、隠していた小さい袋を俺の胸の辺りに置く。 保冷剤が入っているのだろう、少しヒンヤリと冷たい。 中から1つ取り出して、俺の口に運ぶ。 「‥ンっ、あまっ‥‥」 「クスッ‥‥やってあの時井本が甘い方がええ‥ッて、ゆうてたから‥」 ‥あぁ、確かにゆうた。けど、俺でさえ今まで忘れてたのに。 「ごめん、甘過ぎたか?‥‥」 少し悲しそな顔をして蓋を閉じようとする。 その手を遮り、 「いや、この位の方が俺は好きや。 旨いし、甘いし、冷たいし‥‥ 喉に心地ええ‥‥」 藤原の顔がクシャクシャの笑顔で一杯になる。 ‥コイツ、ええ笑顔するよな。 コイツの笑顔俺、好きやわ。 心の底から藤原の笑顔をずっと見ていたいと、思った。 ‥護ってやりたい‥‥‥ そう思って顔を見る。 俺と視線が絡み合って藤原が切なく下唇を咬む。 「ンっ‥皮も剥いてあるからそのまま食べてや。」 また、一口俺の口に運ぶ。 「ンっ、ウマッ。せや、さっきの続きやけど‥藤原は好きな子いてるン?‥」 ‥何を聞いてンやろ‥‥‥ 聞かれた方の藤原は、困ったような顔を一瞬して‥ 俺を真っ直ぐに見つめて、 「‥居る‥し、‥‥」 歯切れ悪く答える。 「そ、‥‥なんや、居るんや。 えっ、じゃぁこんなことしてたらアカンやんか。」 好きな子がいてるって聞いて、ショックやった。それと同時に、上手い事いったらええのに‥ッて、思った。 可笑しな話やけど‥単に、藤原の笑顔を護ってやりたいと願ったから‥‥
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