檸檬

7/7
前へ
/384ページ
次へ
起き上がろうと体勢を反る俺をヤンワリと制して、 「このまんまで居ってや‥‥俺、誤解してもらいたいねん。」 声が震えている。 「‥何でやねん。それ、どいゆう意味や?‥‥」 頭を抱えられたままで藤原の瞳を覗く。 「‥引かんとってや。最後のチャンスやと思って‥‥んねん‥‥」 瞳が一層揺れ始める。 ‥ちゃう‥‥涙や‥ 「俺、井本が‥‥‥好き‥や、ねん。」 涙が俺の頬に落ちる。 「もし、今日井本が一人になったら‥‥全部ゆぉうって‥‥夏休みになったら、俺の事なんか絶対に忘れてしまうやろから。」 俺の頬に落ちた涙を拭い、震える唇で話を続ける。 「井本に釣り合わんのはわかってるし、男同士なんもわかってる‥‥そやけど、ゆうておきたかってん。 ごめん、‥‥きしょいやろ? ホンマ‥ごめん‥‥」 そうゆうと、俺の頭をゆっくり下ろして立ち上がる。 「話したかったンは、こんなけや。」 淋しげに笑う。 「そうなんや。じゃあ、俺もゆうてええ?‥」 「何を?‥ 」 不思議そな顔をする藤原に 「頭、痛いんやけど‥‥膝、貸してや。 ‥‥そんでなあ、寝たら適当に起こしてや‥‥」 下から見上げてニカッと笑ってやると、クシャクシャの笑顔で、 「うん、‥‥井本、」 もう一度膝枕してもらう。 「なぁ、檸檬好きやねん。‥‥食べさしてや。」 「うん、‥‥」 「あっまぁー!‥‥」 「ごめん、甘過ぎて‥‥‥」 「藤原、味見してへんのか?‥」 「うん、‥」 ひと切れとって、藤原の口に運ぶ。 「グゥッ、‥あまっ!‥‥」 「甘いやろ?‥けどな、こうしたら‥‥」 ひと切れ自分の口に入れてから人差し指で、チョイチョイと藤原を呼ぶ。 近づく唇に自分の唇を重ねる。 「ンッフゥ‥‥」 「なっ、丁度ええやろ?‥」 笑ってやると、クシャクシャの顔が真っ赤になって涙が溢れた。 「‥井本、‥‥俺、」 「ン?俺も好きやで‥‥ええ夏休みになんなぁ。」 そうゆうて目を閉じた。 ゆっくりと俺の髪を梳く藤原の手がいつまでも心地良かった。 終わり。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加