たかちゃんとフジワラ

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目の前に小さなホテルが建っていた。 「貴ちゃん?ここでおぉてるやんな?‥」そう一言ゆうてから中に入る。 ‥俺、知らんて。 そんな俺を置いて、 「今晩は、部屋空いてますか?」フロントで訊ねている。 ここまできて匂いがキツくなり立っていられなくなり、ロビーの椅子に深く腰掛ける。 ‥‥アカン、吐く‥‥‥ 「貴ちゃん、部屋行こか。‥‥疲れたン?顔色悪いで。‥」 あまり心配をかけたく無かったので、大丈夫や‥とだけ答えた。 俺の右手を曳いてエレベーターに乗り込む。 館内に入れば入る程嫌な感じに包まれる。 藤原の右肩のナニかは段々と活発化している。‥‥ 頭痛が酷くて我慢の限界に達しかけた時、部屋についた。 中に入ると嘘の様に治まる。‥ 入り口で突っ立ってると、藤原に抱き締められた。 「貴ちゃん、気分はどないなん?‥また、お腹か頭痛いとちゃうのン?‥」 「ン、大丈夫そや‥‥なんか、疲れたみたいや‥」 「そっか、じゃ、風呂用意してくんな。‥」 藤原がバスルームに消えて行く。 ‥一体なんやねん。部屋に入った途端に藤原の肩のもんが消えたし、‥‥ ベッドの脇に腰掛け煙草に火を点ける。 部屋は極々普通の部屋。窓からは先程の海が見える。 不意にドアがノックされた気がした。 耳を澄ますが何の音も無い。‥‥が、ドアを開けなきゃと気持ちがザワつきだす。 立ち上がり、ドアを開ける。 誰も居ない。‥‥ 開けた瞬間一陣の風のようなモノが俺の鼻先を掠める。それと同時に優しい感じに驚いた。 ‥たか‥ちゃん、‥‥ 名前を呼ばれた‥‥? 藤原からした匂いとは違う別物。 振り返り探したが、感じただけで見えた訳でもない。 ‥気のせいか‥‥‥ 自分に言い聞かしドアを閉める。 風呂場からは藤原の珍しい鼻唄が聴こえてくる。 想像すると笑えてきて、クスッと洩れる。 ベッドに座り直して部屋を見回す。当たり前の事だか部屋には俺一人。他に誰も居ない。‥‥はずやのに‥‥ なぜか胸騒ぎがする。‥
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