金平糖

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出番待ちの楽屋に、バタン! と大きな音を発ててうちの相方が入ってくる。 バンっ! 「‥やる。」無造作に小さな包みを投げつけてくる。 「痛っ!? 何やねんな。‥痛いやろが‥‥」 「やるってゆうてんや。」 不機嫌極まりない口調で応えるのはいつもの事。 仕方なく包みを開けてみると 「‥?‥‥金平糖?」 「高ついたで。‥‥一万五千円や。」 「また、パチスロか?‥戦利品なんやろ? それにしてもまた、高ついたな。」 繁々と包みと相方を眺めながら呟く。 「戦利品やない。配っとった。七夕やと‥‥クソッ!腹立つ!何が七夕や!」 ‥へぇ~、粋な計らいやな。天の川の金平糖やん。‥ そんな事を考えつつ、 「クスッ、じゃぁ一万五千円とちゃうやん。」 「俺はあの店にはろたんや。」 訳の解らない言い分に少し可笑しくなる。思わず零れた笑いに、 「ウッサイわ!しゃぁないやろが。‥時間が無かったンやから。」 「アホやなぁ~。たかが出待ちの1、2 時間で何とかなるもんやないんやろ? 行かんかったらええのに。」 金平糖を眺めながら相方を盗み見ると、口を尖らせまだ愚痴をこぼしている。 「何っ!やねん。もう絶対あの店には行かへん。」 井本に1つポツンと棘ができた。‥‥ 機嫌の悪いアイツ。 せやなぁ、今朝は起きた時はまだ機嫌が良かったンやけどな。 えっ、何で知ってンねんってか? そりゃぁ、ねぇ。‥昨夜は俺ン家にお泊まりやったから‥‥って、何を言わすねん。 ってか、俺誰と話してンねん‥‥ 妄想の末期やな。‥‥ まっ、ええけど。 カーテンを開けた時に‥‥まぁ、カーテンが外れて落ちたわな。 ‥‥それで棘が1つ。 コーヒーが思いの外熱かってキレたんや。 ‥‥また棘が1つ。 コーヒーはブラックがええってゆうんでブラックにしたら、苦い!ってキレて ‥‥また、1つ。 タクシーに乗り込んだら運転手の態度が悪かって‥‥ あれっ? キレてへんな。むしろ、楽しそやったな。 そっか、俺が苛々したからな。‥
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