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食事を作る合間に風呂の様子を窺う。
‥シャワーの音してるし大丈夫そうやな。
俺は安堵して、音をたてないように静かにドアを閉めた。
中々皆に信じてもらわれへんけど、アイツは案外、気ィ使いやし俺より傷付きやすい。ただそれを怒りでしか表現出来ないのだ。
だから、最悪な時には脱衣所でずっとしゃがみこんだり、湯槽に浸かって一点を見詰めてたり‥‥人に弱味を見せへん分、大変なんや。
ゆっくりと風呂に入ったアイツが出てくる頃には、粗方料理が出来上がっていた。
「ちゃんと頭も乾かしや。」
「あぁ。」
返事をしてるが頭からは雫が零れる。
こうゆう時は、俺が黙って拭いてやるしかない。
「ホラッ、こっちに来いや。」
「‥ン‥‥」
タオルを片手に傍にやって来る。
ワシャワシャと撫でる様に拭いてやると、猫の様に目を細め気持ち良さそうにする。
また1つ棘が溶ける様に丸くなっていく。
きっとこれもええ事の1つなんやろな。‥
「飯にしよか。」
「ぉん。‥‥」
返事をしたが向かった場所はベランダ。‥窓を開け放ち煙草に火を付けている。
背中越しに様子を窺ってるのがわかる。
多分、かなり期待しているようだ
テーブルに忙しなく料理を並べていく。
取り敢えず、ビールとコップを置き、今年最初の枝豆を添える。
蓮根の薄切りしたものを素揚げして柚子胡椒を盛る。
だし巻きをふわふわに巻いて横に紅生姜。
そこまで並べたところでもう一度声をかける。
「飯やで。」
頭を掻きながら嬉しそに席に着く。
「旨そやな。」
「せやろ。あと、トマトとブロッコリーとササミ、モッツレラチーズ のサラダあんで。」
「ありがと。‥ほな、頂きます。なぁ、米は?」
「ゆっくり食べてや。やっぱり炊きたてご飯がええからちょっとまってや。で、お楽しみにしてや。」
お互いにビールを注ぎあいして少しづつ近付く。
アイツの身体が俺にピッタリと貼り付く頃、炊飯器の合図音が響く。
「炊けたみたいや。‥」俺は立ち上がりキッチンで盛り付けにかかる。
「なぁ、丼なん?」微酔い加減の少し甘い声で訊ねる。
「ちゃうよ。‥‥けど‥旨いで。」
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