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応えつつも少し大振りの器に、手際よく熱々のご飯をよそい上に鯛のお造りを乗せ、三つ葉にごま、山葵で彩る。
先に器を運ぶ。
「丼やん。海鮮丼か?」
「‥ンフフ、違うから、イラチやな。急かすなや。‥」
含み笑いをしながらコンロからお出汁を持ってくる。
「熱いで‥‥」
貴史の目の前で器にお出汁を注ぐ。
熱々のお出汁で鯛の身が白く湯引きしたみたいになり、三つ葉の良い香りが漂う。
「旨そやな。‥‥」
「やろぉ? 鯛茶漬けや。
これやったら腹にも優しいやろうし‥熱いけどさっぱりとええかな‥って。」
「ありがと。」と、嬉しそに笑うアイツにはもう棘が無かった。
「じゃ、頂きます。
旨っ!‥アチッ!‥‥何これ、お出汁、ムッチャ旨いやん。
俺、これやったら明日の朝も食べたいで。」
「ハハハ、ゆっくり食べぇや。‥火傷済んで。‥
お前がそうゆうと思って、今度は漬け置きしたのを作ったぁるよ。」
それを訊き、「ヨッシャ!」と、更に嬉しそに笑うのを見て
‥俺、この笑顔が見れるンやったらなんぼでも作ったるで‥
お前が喜んでくれるンやったら‥‥
1日の最後は俺が必ず「ええ日やったって。」感じさせてあげたいンやで‥‥
食後の一服をしながら不意にアイツが、
「何か‥‥ええねぇ、こんな1日も。‥なっ。」
そうゆうと、上目使いで俺を見る。
「俺な、ホンマに今日は最悪やってンで。‥
知ってるやろ?‥ やのに、全部お前が帳消しにしてしもた。‥‥
不思議やな。‥
俺、今はな、‥‥
今日はええ日やったって思えてンねん。」
余りの素直な言葉に驚く。
「‥ン‥良かった。お前の身体中の棘が溶けてしもて‥‥」
「?‥‥」
不思議な顔をしたアイツがもう一度俺を見る。
「これ、お前のくれた金平糖や。‥‥
俺にとってはお前は金平糖と一緒や。
ホンマは甘ったるくて、丸くて、可愛いて、コロコロと俺の腕の中に居るのに、直ぐ身体中を棘棘にしてしまうねんな‥‥」
髪を梳きながら囁く。
「何やねんな、‥‥」口を尖らせて抗議する。
「クスッ、ホラな、また 棘やん。‥」
今度は耳元で息を吹き掛ける様に囁くと、くすぐったそに身体を捩る。
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