金平糖

7/8

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/384ページ
応えつつも少し大振りの器に、手際よく熱々のご飯をよそい上に鯛のお造りを乗せ、三つ葉にごま、山葵で彩る。 先に器を運ぶ。 「丼やん。海鮮丼か?」 「‥ンフフ、違うから、イラチやな。急かすなや。‥」 含み笑いをしながらコンロからお出汁を持ってくる。 「熱いで‥‥」 貴史の目の前で器にお出汁を注ぐ。 熱々のお出汁で鯛の身が白く湯引きしたみたいになり、三つ葉の良い香りが漂う。 「旨そやな。‥‥」 「やろぉ? 鯛茶漬けや。 これやったら腹にも優しいやろうし‥熱いけどさっぱりとええかな‥って。」 「ありがと。」と、嬉しそに笑うアイツにはもう棘が無かった。 「じゃ、頂きます。 旨っ!‥アチッ!‥‥何これ、お出汁、ムッチャ旨いやん。 俺、これやったら明日の朝も食べたいで。」 「ハハハ、ゆっくり食べぇや。‥火傷済んで。‥ お前がそうゆうと思って、今度は漬け置きしたのを作ったぁるよ。」 それを訊き、「ヨッシャ!」と、更に嬉しそに笑うのを見て ‥俺、この笑顔が見れるンやったらなんぼでも作ったるで‥  お前が喜んでくれるンやったら‥‥  1日の最後は俺が必ず「ええ日やったって。」感じさせてあげたいンやで‥‥ 食後の一服をしながら不意にアイツが、 「何か‥‥ええねぇ、こんな1日も。‥なっ。」 そうゆうと、上目使いで俺を見る。 「俺な、ホンマに今日は最悪やってンで。‥ 知ってるやろ?‥ やのに、全部お前が帳消しにしてしもた。‥‥ 不思議やな。‥ 俺、今はな、‥‥ 今日はええ日やったって思えてンねん。」 余りの素直な言葉に驚く。 「‥ン‥良かった。お前の身体中の棘が溶けてしもて‥‥」 「?‥‥」 不思議な顔をしたアイツがもう一度俺を見る。 「これ、お前のくれた金平糖や。‥‥ 俺にとってはお前は金平糖と一緒や。 ホンマは甘ったるくて、丸くて、可愛いて、コロコロと俺の腕の中に居るのに、直ぐ身体中を棘棘にしてしまうねんな‥‥」 髪を梳きながら囁く。 「何やねんな、‥‥」口を尖らせて抗議する。 「クスッ、ホラな、また 棘やん。‥」 今度は耳元で息を吹き掛ける様に囁くと、くすぐったそに身体を捩る。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加