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いつの間にか俺を追い越したアイツが舌打ちをする。 「チッ! 早よせぃや!」 「はい、はい。‥どっちに乗る?」鍵を開けながら訊くと 「わかっとるやろ。‥‥」と、助手席に滑り込む。 シートベルトをしたのを確認して発進。 「どっかよる?」 「ン‥せやな。‥飯どないしょうか。‥」 「軽くでええンやったら、作ろか? まっ、酒のアテみたいなもんしか出来へんけど。」 「そっかぁ、‥なっ、買い物よってや。俺‥鰻が食いたい。なぁ、ひつまぶし作ってや。なっ。」 「えぇー、土用の丑にはまだ早いやんか。」 「ええやん。俺食いたいもん。」 まるでたかちゃんが駄々をこねる様に口を尖らす。 「そんなん店で食べた方が絶対に旨いで。」 「イヤや。‥お前ン家でお前の作ったンが食いたいンや。 ‥‥‥やって、‥‥お前の作る鰻巻きも、メッチャ旨いし‥‥」 窓に映る街並みを照れ隠しで眺めながら、最後の方は呟く様にボソッと言った。 ‥ホンマ、素直や無いな‥‥ クスッと笑うと、「‥笑うなや‥‥」と、言って被っていた帽子を目深にかぶり直す。 ‥しゃぁないなぁ、面倒くさいけど喜んでくれるンやったら頑張ってみよか。 ‥けど、たかちゃん今度はオムライス食べたいってゆうてたよな‥ 考え出した俺を貴史が不安そに見つめているのに気付かないまま、車はスーパーに向かう。 「降りる?‥それとも待ってる?‥」 財布をポケットにしまいながら訊ねると、 「‥‥待ってる。‥‥」 「何やねん、いきなり暗くなって‥‥」 頭を撫でると、グスッと鼻をすする。 泣き出しそうな予感がした‥‥が、直ぐにアイツは笑って「プリン、買ってきてや。」と、俺にゆう。 「‥ぅん、‥‥ちゃっちゃと済まして来るから、‥待っててや。」 俺は足早に店内に向かった。その後ろ姿をアイツが、泣き出しそうな瞳で見送っているのに気付きもしなかった。‥‥ 「藤原の‥‥アホ、‥‥」 急ぎ場やに店内に向かった藤原の後ろ姿を見送って車から降りる。 店に背を向ける様に夜空を見上げる。 光りの少ない反対側は辛うじて星が輝いている。
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