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仕事上がり、アイツは軽く俺に声をかけてきた。
「なぁ、この後‥‥誰かと約束してるン?」
「ン、してへんよ。‥ゆっくりと、まったりと、‥筋トレかな。」
「フーン、‥ほなっ真っ直ぐ帰るんやな。‥
じゃぁ、お疲れさん。」
「‥?‥‥あぁ、お疲れさん。」
‥何やねんアイツは。全然意味わからんわ。
俺に背を向けて帰る井本の横顔を見ると何か企んでいるように思える。
‥まっ、ええか。俺も早ょ帰ろ 。
帰り仕度をちゃっちゃと済ませて家路を急ぐ。
部屋に帰り先ずは、換気がてらに大きく深呼吸をする。
‥晩飯、どないしょ。食べにいくのも億劫やし。‥
デリバリーも、‥ややなぁ。
ぼんやりと、思案していると不意にインターフォンが鳴り響く。
ピンポンっ!ピンポンっ!ピンポンっ!
「ハァー、この忙しない音は井本やな。‥」
バンッ!「早ょ開けろや。居るンやろがぁ!」
「ちょっ、蹴ンなや。‥」
ドアを開けるとスーパーの袋を提げたアイツが笑っていた。
「どないしたン?‥何、この荷物。‥」
「やって、今夜は十五夜やで。‥
お月見で一杯やろや。お前ん家からやとお月さん綺麗に見えるやろ?」
「クスッ、そんなことかいな。‥でも、たまにはええよな。‥」
俺の目の前に芒と萩の花を差し出す。
「ハハハ、用意ええねぇ。‥もしかして御団子もか?‥何やねん、これ関東風やん。」
「しゃぁないやん。関西風は売ってへんかってんもん。‥けど、芋焼酎はあんで。」
と、嬉しそに笑い勝手に冷蔵庫にしまう。
そして、余程疲れていたのかソファに横になり、
「お月さん出たら起こしてな。」とゆうて寝てしもた。
「クスッ、何やねんこいつは‥‥」
寝顔を見てると日頃の暴君の影すらない、可愛いたかちゃんの寝顔に見え思わず‥‥‥
「たかちゃん。‥」呼んでしまった。
「‥ンっ?‥かじゅくん!」
‥あっちゃぁ!‥‥
「ワーイ、かじゅくんあいたかったぁ。‥
‥‥?‥どないしたン?なんでへんなかおしてんの。」
「ぅうん、何もないよ。‥たかちゃん、今日は十五夜やで。‥アイツに内緒で先に二人でお月見しよか?」
慌てて優しく誘うと、
「ぅん!‥‥おつきしゃんみんの?」
「せやよ。今夜は、真ん丸で中秋の名月ってゆうんやて。」
「フーン、‥ンじゃぁ、メッチャきれいなン?」
「そやよ。」
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